リリアンナ、春まであと何メートル?
ため息の空想を風がさらって、少しだけ寂しい目をしてる。
リリアンナは古城を出る。
リリアンナが旅と呼んだ、
リリアンナの12ヶ月。
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ウェンツの白い街並みに浮かれて買った星型のサングラスが今になって少し恥ずかしい。
そんな8月もリリアンナの旅は続く。
突然「楽しんでね」って声をかけられてびっくりして上手く笑えなかった。
そんな9月もリリアンナの旅は続く。
もらったお菓子を食べようとしたらどこからともなく猫が三匹寄ってきた。
10月の不思議な夜もリリアンナの旅は続く。
俯いて目に入った足下の影に何となく「寒くなったね」って呟いてしまう。
11月の海みたいな夜もリリアンナの旅は続く。
サイドテーブルに飾る造花を買った帰り道、白い景色に目が眩んだ。
12月の雪積もる日にもリリアンナの旅は続く。
切手に落ちた雪のひとひらごとあなたの街に届いたらいいのに。
そっとポストに手紙を落とす1月の街灯の下にも、リリアンナの旅は続く。
かすかに窓を叩く音がして「寒いですよ」という声を振り切った。
2月の終わりにも、リリアンナの旅は続く。
三歩ごとに立ち止まる。
そぞろな3月もリリアンナの旅は続く。
フリマで買った「春の翼」は1500コイン。
願いを込めて綿毛を飛ばせば東の空の天使に届くんだって。
4月、リリアンナの旅は続く。
ひたすらまっすぐ歩き続けて辿り着いた花畑で忘れ物に気付いてももう遅く晴れやかになれない。
相反する5月も、リリアンナの旅は続く。
少し晴れて寝苦しい日は冷感ぬいぐるみを抱いて寝るの。
6月もリリアンナの旅は続く。
連結部のドアは開きっぱなしで隣の車両から誰かのはなうたが聞こえる。
正面の窓に映る自分を見るのはなんとなく居心地が悪くて壁の路線図を見つめた。
最後の消印の場所に向かう7月。
リリアンナの旅は続いてる。
『ウィルトンの夜はきみが思うより明るいよ。
欠けた電飾のいくつも埋もれるほど。
それであってすべての路地に必要なだけの夜がある』
使われなかった銀の弾丸がひとつだけ込められた払下げの銃と一緒に送られた手紙は確かにリリアンナの文字だった。
取り決めたコード、8月も、リリアンナの旅は続く。
昨日の天気を思い出せなくても、去年の今日を思い出せなくても、明日も、明後日も、きっと明々後日も。
リリアンナの旅は続く。