「絶対階級学園 -Eden with roses and phantasm- 」感想 幕が上がればもう戻れない

 

 

f:id:mimiura:20190104194634p:plain

 

 

 

(2018.12.19  クリア)

ハムレット、オフィーリア、黒い絵、聾者の家、マザーグース、黄いろのトマト、ジキルとハイド、王子とこじき……ぱっと思いつくだけでもこのくらいの、塗されたキーワードとモチーフはこうして並べるとどうしても節操がないように見えてしまう。

 

ゲーム本編中にひとつひとつ聞き集めているときですらも少し過剰に感じてしまった「別の誰か」たちの物語は、『散りばめられた』でも『放り込まれた』でもなく、『塗された』というのが一番合っているんじゃないかと、全てを開いた今となっては思います。

 

 

絶対階級学園というタイトルで示されているように、いわゆるスクールカーストものの要素があり、階級制度が導入されている学園に主人公が編入してくるところからお話は始まります。

 

階級は三つに分けられており、それぞれ名前が、

 

「咲き誇る薔薇」

「名もなきミツバチ」

「捨て置かれた石ころ」

 

上位が薔薇で下位が石ころですね。

主人公の最初の階級はミツバチ階級で、個別ルートでそれぞれ石ころ階級ルート、薔薇階級ルートに分岐していきます。

どちらのルートもとてもいいんですが、主人公である藤枝ネリが編入当初の学園の外の感覚を失わずにいられれば石ころルート、学園側の意図に染まっていけば薔薇ルート、という分岐をするため、薔薇ルートの展開は特に多彩で、ネリちゃんの考え方や行動も元々のネリちゃんの性質そのままに環境に抑圧され徐々に歪みとなっていくパターンがあれば別人みたいに溶け込んでいくパターンがあり、ようやくできた友達を失わずにいるためにしがみつくしかなくなるパターンもあり、5人分それぞれにそれぞれの痛々しさがあって先を読まずにいられなかった……おもしろくて……

 

で、まあ、そんな薔薇ルート含め各ルートにエンディングはハッピー/バッドエンドともにかなりの数用意されていますが、全部が明かされるエンディングに繋がるのは石ころ階級ルートのみです。

 

珍しい点として、各キャラクターに真相ルートが用意されていること。

グランドエンドとかオーラスエンドとか、ああいうやつです。ああいうのって、(あるとしたら)一本のゲームにつき一ルートっていうのが普通なんですけど、このゲームの場合全員にそれがあるんですね。

ただ、大きな落とし所が変わるわけではないので、真相ルート自体の基本的な筋立ては全て同じようなものになってます。 この、ほとんど同じっていうのがねえ……狭い特別に固執したり敵視したりしていた人たちを一人一人見送りながら、重ねていくごとに鈍く痛むようでした。そこまで剥いで横並びにしてしまうんだっていうのもあったし……

 

 

スクールカーストものって私、この作品に限らずなんか妙に外側にいる人の視点に立ってしまって見ていて気恥ずかしくなってしまうんですけど、そしてそういう人は割といるんじゃないかなあと他のスクールカーストもの作品の感想などを見ていて思うんですけど、この作品はそういう、外の感覚も利用して真相ルートへのブーストをかけていく。

 

絶対階級学園というタイトルと三つの階級の名称、飾り立てられた多くのモチーフを初めて目にしたときの気持ち、その、最初の感覚をどうか忘れずに進めていってほしいなあと、これから先このゲームを始める方々の存在というものを想像し、祈るような思いで書いています。

 

 

その先にある誰かの切実な願いの形、みじめで、滑稽で、気恥ずかしくいたたまれない、ちいさな誰かの真摯な願いを、その形を、どうか確かに掴まえてほしいのです。

 

 

 

 

 

各個別ルートについて

 

 

 

 

 

 

ネタバレあります。

 

 

 

 

 

鷹嶺陸

 

 

「一番かわいそうな王子様」とは、ショウの言葉。

 

表メインキャラとのことです。

読み進めていくとなんとなくオチの方向性は見えるようになっているので基本的に真相ルートでショックを受けることはなかったんですけど、陸ルートだけはつらかった……

食べると生きる以外に割く時間なんてないような生活の中で別の誰かの物語を読むことが支えだった小さな陸の幼い空想の具現こそが「絶対階級学園」なのです。夢のようだったろうね……

 

陸の石ころ/薔薇ルートは、階級の移動によるネリちゃんの変化よりも、陸の階級制度への意識の変化の方が重たいように思いました。

石ころルートでも薔薇ルートでも、どちらを選んでもどちらかに転がれるような。

大きな環境の変化よりも、瞬間的には意味を持たないその場その場の小さな選択の積み重ねが石ころルートの結末を生み、薔薇ルートの結末を生むような。

 

 

薔薇ルートで一番印象深いのが陸の部屋に対するネリちゃんの反応。

 

陸の部屋って基本すごい散らかってて、その散らかりように石ころルートのネリちゃんがたまらず掃除をしてしまうというシーンが何度か繰り返される。

背景も、散らかった部屋と片付いた部屋とちゃんと二種類用意されています。

 

石ころルートのネリちゃんは陸の部屋を見た瞬間まだ声にはしないまでもモノローグでその汚さに驚くんだけど、薔薇ルートのネリちゃんからは一言も陸の部屋の散らかりように対してコメントが出ることがない。

陸に対してはもちろんのこと、モノローグでも触れない。

気付いてすらいないのかもしれない。

 

薔薇ルートのネリちゃんと陸は、散らかった部屋で紅茶を飲みます。

乱雑に放られた本やボードゲームやいつ着たか分からない服を適当にはらって床に落として、きっとそうして作ったスペースで、きちんとティーカップに淹れた紅茶を飲みます。

茶渋で汚れたティーカップが積まれ、床に落とされ、新しいティーカップがまた積まれることでしょう。

 

汚れた部屋に人を招くことに疑問はなくとも『お客様』にはきちんとティーカップでお茶を出すことはする。

薔薇ルートで一番、背筋が冷えるような怖さを感じた描写でした。

 

 

 

鷺ノ宮レイ

 

 

《スパンコールのドレスで頼りなく震えてた 愛がなくても怖くないなら キミのためにならないけど 可愛がってあげるよ  / TOY DOLLー the pillows

 

 

イメソン引用から始めてしまった。

 

裏メインキャラ、というのはなるほどという感じで、

一人のままどこかの誰かの物語に憧れて理想の舞台を踊り続けたのが鷹嶺陸なら、

一人では耐えられずもう一人の自分を生み出し舞台の方に自分を最適化させたのが鷺ノ宮レイでした。

 

そしてこの、もう一人の自分というのはネリちゃんとお姉ちゃんを結んでいたものでもあるんですよね。

もともと私は『もう一人の自分』という概念そのものが好きなので、レイのルートも全編通してやっぱり好きでした。

特に薔薇ルート。the pillowsのTOY DOLLが性癖ですぐ認定してしまうんですが、薔薇ルートバッドエンドのレイね、これだった。完全に。本当だって。

 

 

VFB記載のライターさんによるレイへのコメントで「レイは自己肯定感が低いのでワガママな陸に振り回されることで救われていた面もあるのかもしれませんね」みたいな言葉があって、レイの薔薇ルートを思い出してしまいました。

 

レイ薔薇ルートのネリちゃんも自分に自信がない子です。

上位の階級に馴染めないコンプレックスを抱えながらそれでも溶け込むために必死で、何にでも手を出し、騙され、嘘をつき、嘘が嘘を呼び、後戻りできないところまで追い詰められてしまう。

自分と似たものを持つ、自分と違ってひとつも上手く出来ないネリちゃん。

もう一人の自分。

 

 

薔薇ルートはハッピーエンドでのレイのセリフも好きなんだよねー。 泣いちゃう。

 

 

「聞かせてくれないかな。 君の話。 それが終わったら、今度は僕の話をしよう」

 

 

 

七瀬十矢

 

 

一番つらかったのは陸の真相ルートなんですけど、ひどい……て感じだったのは十矢の真相ルートだったかなあ。

 

階級制度に疑問を持っておりレジスタンスを結成して抵抗している……というキャラクターなんですが、そもそもこの学園自体良家の子女だけが入学を許されており、十矢の父親も政治家だったりして、レジスタンスの活動も十矢の学園での振る舞いもどこか余裕があるんですよね。

頼れる実家があって最後は助けを求めようとする。

それは十矢だけではないんだけど、後ろ盾があってこその囚われない自由でもあった(ように見えた)十矢だったからこそ、真相ルートの展開は見ていてしんどいなあ……でした。

薔薇ルートハッピーエンドのネリちゃんの、執念にあやうさがなく芯が通っているとこが突き抜けてるなあって、好きです。

 

 

 

加地壱波

 

 

どうでしょう……どうでしょうか……私はちょっとこのライターさんと合わないかな……という感じでしたが……

 

何だろう、一番分かりやすいルートではあった。自分の心を守りたい、だからこの人に優しくする、だからこの人を切り捨てる。その時々の状況に合わせてその二つの間で揺れながらバランスを取っている。今の立場を守りたいだけだったらまだよかったんだろうけど。

 

こういう、保身に走る割に徹底しきれない人に好感を持つのは私には難しかった……

好感の持てない人が好感の持てない理由である『でも』と『やっぱり』の間で一進一退するような内側の揺れ動きがメインで、そもそも好感を持ってないのでどうでもよく、そこでもうちょっとつらかったんだけど一番微妙だったのは石ころルートのオチの付け方。

これさー、新聞部部長の女装趣味を暴いて失脚させてハッピーエンドっていうやつ、これもうがっかりでしょう。発売当時でも絶対同じこと思ったよ。

このハッピーエンドにショウが協力するのもやめてくれって感じでした。

 

顔のあるモブキャラがとにかく多い絶対階級学園ですが、私が一番好きなモブが壱波ルートにて登場する拾井マキさん。黒目がちのタレ目につんとあがった顎、不敵に眠たそうな声がなんだか気になる印象的な女の子でした。

 

 

 

五十嵐ハル

 

 

あーーーーーーーーあのね。

 

あのね。

 

あの…………………………………………………………………………

 

め…………………………………………………………ちゃすきです…………………………

 

フルネーム打っただけで震えてしまう…………心が………………………………………

 

 

はあ。

 

 

あーもーねえ、お話自体も、嫌だなあってとこがひとつもないし、ていうか好きだし、文章もきれいだなあって思うし、顔がかわいいし、ちょっとぼーっとした声のトーンがよくて、とにかく…………とにかくすき…………このひとを構成する全てがすきです…………それ以外に言葉いる? もうだめ。

 

 

 

 

一番最初に攻略したキャラでした。

 

なので、後々まで分からなかったんですけど、石ころルート分岐点でのネリちゃんってハルのルートだけセリフや展開がやや違うんですよね。

大きく変わるわけではないんだけど、でも、些細な、大事な変化をし、個別ルートでの展開に影響と説得力を与えるところがハルの個別ルートを好きな理由の一つです。

 

 

階級移動が発表される女王のお茶会、その二回目でミツバチ階級から石ころ階級へ、もしくは薔薇階級へ移動させられることから各ルートへの分岐をしていきます。

石ころ階級への移動が決まった場合、それまで仲良くしていたミツバチ階級の友人や壱波から冷たい言葉を投げられ、出自をばかにされ……そこでどういう行動を取るか、怒るのか諦めるのか、ここでの選択肢は数種のエンディングの分水嶺のひとつになります。

 

藤枝ネリがここでちゃんと怒れて、その怒りを伝えることができる人間のままでいられたからこそ石ころルートは真相ルートに繋がるのですが、ハルのルートに限っては怒るという選択肢が存在しない。

ハル石ころルートにおける藤枝ネリは、ひどい言葉で自分を中傷するかつての友人に向かって手を差し出し、いつかまた友だちになりたいと笑うのです。

 

陸、レイ、十矢、壱波の石ころルートのネリちゃんは線を引かれても譲らず踏み越えてでも啖呵を切ったのに対し、ハルの石ころルートのネリちゃんは引かれた線から更に一歩下がってそこから手を差し出します。

差し出すための後退だったのだろうそれは、相対するその人の方から踏み越えてくれることを要求するようで。

そして、だから、届かない。

 

 

ハルの個別ルートは、他のキャラクターの介入が少なく、階級移動で仲違いする友だちとの関わりが唯一そこでぷっつり途切れてしまうルートでもあります。

他のキャラクターにはそれぞれ用意されている、特定のキャラクターの個別ルートを大きく動かすサブキャラクター、これもいない。

 『二人』なんです。

ネリちゃんとハルが深夜に学園内を歩くシーンがあって、そこでのネリちゃんのセリフに、「世界に二人きりみたい」というものがあるのですが、このシーンに限らず、ハルの個別ルートではとにかく『二人』が強調されます。

執拗にいじめられたり雑用は押し付けられるものの代替の効く、いてもいなくても大差ない、だから孤立にすらならない、それこそ「捨て置かれた石ころ」の名の通り道端の石ころみたいに、誰からも見つけられない、慮られないただの『二人』として書かれる。

この、深夜の学園内を歩く二人のシーンは特にそうですね。

一文引くと、

 

 

頭上では、砂場で光る石英のように星がチカチカと瞬いていた。

 

 

これ!

もう、これさ……誰にも気にかけられることのない石ころ階級である『二人』が夜空を見上げるシーンで砂場で光る鉱物に星を例えるってこんなの、もう、最高すぎるでしょう……

近付いて砂に手を入れてよく見てみないと気付かないような、小さな特別……でも、見つけようと近付いて、触れて、そしたら案外たくさん見つけられる、ありふれた特別……

 

 

そう、五十嵐ハルは、見つけられる人なのです。

 

 

絵描きの父親を持ち小さい頃から絵を描いていたハルは今までも今もずっと絵を描いて過ごしています。

そんな、先入観や他人の言葉を取り払って自分の目に映るものを紙の上に表現する絵描きの目を持つハルにとって学園の虚飾は虚飾でしかなく、序盤の時点ですでに「同じ生徒だ」と階級制度を一蹴しています。

 

他の攻略対象たちはどうだったかというと。

 

例えば、十矢。十矢は誰のどんなルートにも大体登場するし気遣いの言葉をかける人なんだけど、自身の薔薇ルートで薔薇階級の制服を着たネリちゃんに対しては面白くなさそうにする。階級制度なんて下らないと言いながらも薔薇が敵で石ころは仲間、そんな意識を捨てられずにいる。

 

階級制度に疑問を持つことすらない陸やレイは薔薇階級に移動してきたネリちゃんを歓迎し、当然ネリちゃんも喜んでいるだろうと考える。

 

多くのミツバチ階級の生徒と同じように薔薇階級に憧れる壱波は一人一人の集団での立ち位置に最も敏感で器用に調整し立ち振る舞う。

 

ハルだけが惑わされないのです。

変わらないでいてくれるのです。 

見つけてくれるのです。

踏まれるだけの地面に近付いて、小さな鉱物の欠片を見つけることができるのです。

そんなハルの澄んだ視界は、学園にも制度にも馴染めないネリちゃんの視界でもあって、それが意味するものは、藤枝ネリという人間がいかに孤独で不安だったか、に他ならないのでした。

 

 

藤枝ネリの孤独感。

ハルの個別ルートではお話を大きく動かすようなサブキャラクターの存在はない代わりにこの、ネリちゃんの抱えた孤独と不安が大きな要となっていきます。

 

実家が燃え、父親が失踪し、離島の学校へ編入することになり、出自をばかにされ、せっかくできた友達を失い、制度にも学園にも馴染めず勉強にもついて行けない、いつまでも妙に浮いた存在として、いつになるのか本当に来るのか分からない迎えを待っている……途方もない孤独と不安の毎日の中で、どこでどんな出会い方をしていてもきっと今と同じように接してくれていたと思える人が同じ教室で一人でいたことはどんなふうに彼女に響いただろう。

 

ネリちゃんの境遇はどのルートでも変わらないのだけど、あのお茶会で引かれた線を踏み越えて怒れなかったこと、自分から手放す覚悟を持てなかったこと、衝突を恐れ失うことを恐れたこと、相手に委ねてしまうずるさが、薔薇ルートではわだかまりとして歪みを生み、石ころルートではたったひとつ、たったひとりへと、まっすぐ気持ちを向かわせていきます。

 

 

 

◼︎石ころ/真相ルート

 

 

ハルの記憶の底にある水への恐怖心とその克服を中心に、過去を紐解いていくのがこのルート。

共通ルートでハルが見せてくれる、いくつかのなぜか惹かれる好きな絵のひとつ、ミレーの「オフィーリア」をモチーフとして展開していきます。

ハムレット」に関しては壱波のルートでも取り上げられ、壱波はハムレットに重ねられるのですが、ハルに重ねられるのは絵画の、オフィーリアなのです。

 

石ころルート中盤、「昔から水辺が怖かった」と語るハルが、池に落とされて気を失ってしまうところからハルの水恐怖症が深刻化します。ここの、浅瀬に浮かんで死んだように動かないハルのスチルがすごくきれいなんですよね……このゲームで一番好きなスチルです。

気を失うハルをネリちゃんが水から引き上げようとするものの、重たくてなかなか動かすことができない。周りで見ている生徒たちに助けて欲しいと声をかけますが、誰ひとり二人を助けようとはしません。

この件をきっかけにハルはコップの水を飲むことすら拒むようになります。

授業にも出られなくなり、徐々に衰弱していき、ネリちゃんはまた一人になってしまう。

そこから「一緒にいてくれた友達を助けたい」とネリちゃんの奮闘が始まるのですが。

 

石ころルートから真相ルートにかけてはネリちゃんとハル、二人の戦いのお話でした。

何だろうなあ、ハルの石ころルートってすごく気持ちのいいルートなんですよね。こういうのを等身大と言うんでしょうか。

強くいられる人が弱くある人を救うでもなく、弱い人どうしが寄り添って生きて行こうとする話でもない。ハルもネリちゃんも、一生徒としてただそこにいて、自分以外にもそう接することができる。ただそれだけのことなんだけど、たったそれだけのことがこの二人にしかできなかった。

ハルの透徹した物事の捉え方も、ネリちゃんの愚直な真っ直ぐさも、見ていてうらやましくなってしまうくらい気持ちがよかった。

そうですね、例えば、

 

 

「破られた絵、テープで……」
震えるハルくんの言葉を引き取る。
「うん、一緒にテープで繋ぎ合わせたよね。下手くそで、全然線が繋がってなかったけど」

 

 

これは真相ルートの終盤、忘れていた記憶を取り戻したときの二人のやり取りで私の大好きなシーンなのですが、ネリちゃんとハルってもう、終始こんな風で、ずっと真横で同じ高さで、渡し合えるんです。なんでしょう……なんていうんでしょうね……すごく難しいことを全く無理せずやっていて、何か、こう、愛おしい在り方というものを見せてくれるんですよね……

 

 

真相ルートのエピローグも、スチル含めてとても美しい帰結を見せてくれます。

 

水恐怖症が更に悪化し、溺水する幻覚と悪夢でとうとう自分の体を傷つけるようになったハルの石ころルートバッドエンド。保健室のベッドに手足を縛り付けられ、存在しない水に狂ったように怯える、ボロボロになったハルのあまりの痛々しさに、ネリちゃんは思わず泣いてしまいます。ポロポロ溢れるネリちゃんのその涙にすら気が触れたように暴れるハルを前にして、涙を拭ってぐっと堪えて笑うしかなくなったネリちゃんの姿に、階級移動が発表されたいつかのお茶会でのネリちゃんの姿がずいぶん昔のことのように過ぎる、そんなバッドエンド。

 

真相ルートでハルは水への恐怖を克服し、あんなにも水が怖かった理由が忘れていた過去にあることを知ります。

両親がすでにこの世にいないこと、

母は溺れた自分を助けようとして亡くなったこと、

父はその数年後アルコール中毒で亡くなったこと、

晩年の父がオフィーリアをモチーフとした絵のみを描き続けていたこと。

父は母の死の原因である自分を責めて、オフィーリアを描き続けたのではないか。

 

エピローグで、ハルとネリちゃんはずっと探していた一枚の絵を見に行きます。

その絵を前に縺れた誤解が解けた瞬間、ハルの目から溢れるように涙が零れるのです。

長い冬を超えた雪融け水のような涙が、頬をつたって、緊張を解いていく。

もう戻らないようにさえ見えた、絡まった誤解を解く最後の一本。

 

「ハル」という名前が記憶を書き換えられた時に与えられたものだったのか本当の名前だったのかは最後まで終えた今でも分からない。レイとハルだけがカタカナの名前であることを思うと、もしかしたら音だけは二人の本当の名前だったのかもしれない。でも私は、絵に付けられたタイトルを見て「偶然?」と呟くハルに「こういうのは、奇跡っていうんだよ」と答えたネリちゃんを信じたい。

 

騙され続けて利用された過去も、正体の分からない恐怖に苦しんだ時間も、乗り越えてここにいることも、「ハル」として過ごしたこれまでの全てへの、祝福だったと思いたい。

偽りの記憶を与えられて本当の記憶とのギャップに苦しんできたハルの、ずっと探してた父親の絵が、偽物を経てそれすらも本物にしてそうしてここにいる今のハルへ。

春の季語をもって、ようやくやさしく語りかけるのだと。

 

 

 

◼︎薔薇ルート

 

石ころルートも薔薇ルートも、ネリちゃんが自身の抱える孤独感を理由と原動力にし加速していくのですが、それが一番強く、かつ、悪い方向に出てしまうのが薔薇ルートでした。

 

石ころルートのネリちゃんが友達と呼べる唯一の人であったハルと、薔薇ルートでは友達でいられなくなります。階級の違うものどうしが横に並ぶことはできないから。薔薇階級には薔薇階級に求められる振る舞いというものがあり、今まで通りではいられない。全部は選べなくて、選ばなかった方を捨てる覚悟を持たなくてはならない。

 

薔薇ルートのネリちゃんは、石ころルート序盤で見せたような目に見えない小さな亀裂を実はずっと持っていて、それに気付かないまま無理を重ねてしまったんだろうなあ。

 

石ころルートのネリちゃんにはそもそもまともに話してくれる人がハルと十矢とエド先生くらいしかいないので迷わずまっすぐ進んでいけるけど、やっぱりネリちゃんだって仲良しの友達がたくさん欲しいし無視されたくなんてないんですよね。

寂しいのも一人も嫌で、お昼はみんなで机を囲むような、そんなふつうの、楽しい学校生活を送りたかった。

 

石ころ階級の生徒は、目立たず穏便に学校生活を過ごしたいか、そうでなければ上の階級に上がりたい人たちの集団なので、悪目立ちしている編入生の石ころネリちゃんと深く関わろうとすることはありませんでした。

 

でも、薔薇階級の生徒は違う。

 

珍しい編入生で特別なにかが優れているというわけでもないのに学園長と女王から目をかけてもらっているネリちゃんは、どの階級にいるにせよ気になる存在ではあったのでしょう。

そんなネリちゃんが自分たちと同じ階級に上がってきたんだから積極的に話しかけて探ろうとしてくるのは自然なことだったと思う。

例えそれが仲良くなりたくてかけられた言葉ではなかったのだとしても、素朴なふつうの女の子であるネリちゃんには、やっぱり、それだけで薔薇階級に昇格してよかったって思えるくらい嬉しかったんじゃないかなあ。

 

薔薇階級の毒はじわじわとネリちゃんの心を蝕みます。

 

本当に馴染めてるわけじゃない、無理をして、無理から目を逸らしてなんとか輪に入れてもらえてる。嬉しくて、それ以上につらい毎日。

そんな中にあっても、石ころルートでそうだったようにやっぱりハルだけは変わらないのです。

一生徒の藤枝ネリと話をしてくれるのです。

薔薇ルートのネリちゃんにとってもハルは唯一の友達で、癒しそのものでした。

 

思えば、石ころルートは『二人』の毎日だった。

誰からも見えなくても、見えたところで踏みつけられるだけだとしても、澄んだ視界に映るものを捉えていく。そう生きる人に共感するなら捨てる覚悟を持たなければならないのに、それでもこれ以上の孤立と孤独が待つ石ころ階級への降格は耐えられない。薔薇階級での仮初めの友情を諦められない。

 

みんなの中で一人になることが怖いけど、みんなじゃない誰かもほしい。

 

ネリちゃんは、薔薇階級に馴染むために自分を変えようとしながらも、同時に、ずっと変わらないでいてくれるハルを天秤の反対側に乗せてしまいます。傾きそうになる精神のつりあいを一人のひとに押し付けてしまうのです。

 

きっと薔薇階級のままハルと友達でいられる道もあっただろうと思う。

今までのように好きなときに話をしたり、放課後一緒にノラ猫にエサをやったりはできなくなるだろうけど。

これから先の未来にある、ハルとのそういう穏やかで何気ない時間を捨てることさえできれば、石ころルートでそうだったように、心を横に並ばせることはできたんじゃないか。

だってハルはネリちゃんが薔薇階級のままであったとしても変わらないでいられる人だ。

 

ネリちゃんが選んだのは薔薇階級らしい手段で、無理を通すことでした。

ここからネリちゃんとハルの関係は少しずつ歪んでいくこととなります。

 

 

薔薇ルートを進めながら、ネリちゃんの交友関係も狭かったけど、ハルの交友関係も同じくらい狭いんだよなーってことを思いました。ハルとふつうに口をきいて気にかけてくれるのって、ネリちゃんと十矢くらいしかいない。

 

ネリちゃんの薔薇階級への昇格は、ネリちゃんの交友関係を一気に広げました。

 

約束も考えることも比べ物にならないくらい増えて、それにつれ、ハルとの会話がだんだん成り立たなくなっていく。ハルにとっての放課後は、絵を描くか猫にエサをやるかだけど、今のネリちゃんにはそうではない。

そんな小さなすれ違いを前兆として、積み重なるバツの悪さがどんどん最初の目印からネリちゃんをズラしていく。頭上の星を見失っていく。

 

気付いたときには致命的なまでにズレていて、そうなると、最初こそネリちゃんの癒しであったはずのハルの変わらなさが逆にネリちゃんを苦しめ始めるのです。

 

ハルの薔薇ルートは、そんな、よく研がれた刃の上をゆっくり指でなぞってどんどん傷が深まっていくような、重症への過程がとてもよかった。

石ころルートで表出しなかったネリちゃんの、誰かとの衝突と孤独への忌避感から来るあやうさにしっかり向き合って光を当ててくれたルートでした。

大好きです。

 

 

 

◼︎

 

 

あー。

これ書くために色々振り返ってたけど、ハルくんはほんとーーにかわいいねえ……

クリア後の感触が三国恋戦記とまったく一緒で、わたしから溢れる感情がわたしに世界を愛しなさいとささやくんですよ、しばらく窓の外のすべてへ愛が止まらない日々を過ごしました。早く魁もプレイしてめちゃくちゃに褒めたいな……

 

VFBとかドラマCDも買ったし昔の店舗特典もハルのだけは中古で手に入れてしまいました。今度のPS4移植もアニメイトとステラで予約したよー。

ハルのルートはとってもよかったし満足してるけどでもやっぱりFDほしいよね。ね。

和田ベコ原画のおとめげーむなんていくらあっても足りないくらいだもんね。ね。

 

CF参加しました。

上手くいってほしいなあ。

 

あ、ハル個別ルートが超々々々よかったので魔性眼鏡を買いました。

次は天涯終わらせてカラマリFDやってパリカやる予定なのでまた先になりそうだけど……

 

元気をもらえたし、2018年はだめだったけど2019年はもうちょっとがんばりたいです。